十八歳の花嫁
第5章 正式な婚約

第1話 整理

第5章 正式な婚約





第1話 整理





深夜二時、藤臣は祐天寺駅に程近いマンションを訪ねていた。

入り口の見える場所に車を停め、彼は携帯電話をかける。
五回コールして相手が取るなり藤臣は言った。


『私だ。今から行く』

『えっ……ここに来るの? 本気で?』


電話の相手は仰天して、それ以上は言葉も出ない。


『何か、不味いことでもあるのか?』

『そ、そんなはずないじゃない。ここに来てくれるなんて、初めてだから……うれしいわ』


その取ってつけたような台詞に藤臣は苦笑して電話を切った。
女優業にも色気を見せているようだが、この大根ぶりでは話にならない。

彼は煙草に火を点け、


「三十、いや、二十分もあれば充分か……」


そう呟いた。

目立つ車だが、ちょうどマンションの玄関口からは死角だ。
もともと、マンション自体が引っ込んだ場所にある。
最寄りの駅まで徒歩三分、都心にも近く隠れ家的マンションと言うのが、売り文句だったように思う。
そのため、外見はかなりシンプルで入り口も狭く、四階建て、総戸数十四戸という小さめのマンションだった。

そこは藤臣が、愛人の長瀬久美子を住まわせるために買ったマンションだ。
だが、来たのは今日が初めてで、彼はオートロックの暗証番号すら聞いてなかった。

二十分経ったが人が出てくる気配はない。

諦めて藤臣はマンションの専用パーキングに停め、エントランスに向かった。
ドアナンバーを押して呼び出すが中々出ない。
そのとき、ちょうどエレベーターの扉が開いた。降りて来たのは水商売風の若い男。酒の匂いをプンプンさせている。その中に男性用コロンの香りも混じっていた。

男はすれ違い様、チラリとこっちを見た。

その思わせぶりな視線に気づかない振りをする藤臣だった。

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