十八歳の花嫁

第3話 停滞

第3話 停滞





五月吉日、T国ホテルで東部デパート創業七十周年の記念パーティが開催される。

日本最大級の宴会場“孔雀の間”が使われ、招待客は軽く二千人とも。
ここ数年、これほどまで盛大に行われたことはない。東部デパートの場合、バブル経済の最盛期で迎えた五十周年以来の規模だった。


T国ホテル、インペリアルフロアの一室。
本皮のリクライニングチェアに座り、オットマンに足を投げ出しながら、藤臣はため息をついた。

テーブルの上には週刊誌が無造作に置かれている。
美馬グループ関連の記事が掲載されたものばかりだ。


「本当に手を切られるとは思いませんでした」


瀬崎は感心したように声を上げた。

久美子との関係を清算するため、手切れ金としてマンションを渡すという書類一式を目にしたせいだ。
女性問題に関して、藤臣はよほど信頼されていなかったとみえる。


「だが、サインせずに逃げ回っている。馬鹿な女だ。これ以上粘っても条件が悪くなるだけなんだがな」


ルーズに見えて、久美子は金には細かい女だ。
藤臣との関係を一切他言しないという条件で、イメージモデルは契約満了まで続けられるように配慮した。
加えて、それまでの月極め手当ても一括で支払うようにしてやった。
これ以上の条件はないだろう。


「裏で入れ知恵する人間がいるのでは?」


瀬崎は書類を見ながら言う。


「そんなはずはない。ばあさんも、現社長の信二も、久美子との繋がりは皆無だ」

「暁さんはどうでしょう? 信一郎様の件でも、色々暗躍されていたようですし……」

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