十八歳の花嫁

第5話 衆目

第5話 衆目





藤臣のエスコートで、愛実は会場に足を踏み入れた。

とくにライトが当てられるわけではないが、やはり、周囲の視線は一気に集中する。
誰もが女子高生の婚約者に興味津々といった様子だ。

頭の中は真っ白になり、愛実の目には赤い幾何学模様の絨毯と多くの足しか映らなくなった。
彼女がうつむいているせいなのだが、今度は数え切れない足の本数に圧倒されてしまう。
会場の熱気が愛実の耳に流れ込み、ひそひそ話や笑い声がすべて自分のことのように感じてくる。

降り注ぐシャンデリアの光さえ、愛実の幼さを責めているようで……彼女は居た堪れない気持ちだった。


「大丈夫。何も心配はいらない。私が傍にいる」


藤臣の左腕に絡めた愛実の指先に、彼の右手が重なった。

小刻みに震える愛実の手をギュッと握り、耳元で『大丈夫だ』と繰り返す。

今日の彼はジョルジオ・アルマーニ・ハンドメイド・トゥ・メジャーのタキシードを着用していた。
身体にピッタリフィットして、洗練された藤臣のイメージをさらにクールに魅せている。

綺麗にセットされた前髪と仮面のような笑顔が彼を遠くに感じ、愛実はその前髪をくしゃくしゃにしたい衝動に駆られていた。


(もう……わたしったら、なんてこと考えてるの)


愛実は深呼吸して、声を出さずに藤臣の左腕をさらに強く握った。


パーティでは久しぶりに母方の親戚に顔を合わせた。
愛実の父が生前、親戚中に借金をし回ったせいである。母は厚顔にも借金を重ねようとしたが、愛実にすれば顔を合わせるのもつらかった。疎遠になっていたが、今回のパーティに合わせて藤臣がすべて返済して親戚一同を招いてくれたのだ。

彼らは口々に

『綺麗になったねぇ、愛実ちゃん』
『これでお父さんもホッとしているよ』
『本当におめでとう』

そんなお祝いの言葉をかけてくれた。

父があれほど迷惑をかけたのに、こうして東京まで来てくれた親戚たちの心遣いが、愛実は嬉しかった。

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