十八歳の花嫁

第8話 開眼

第8話 開眼





藤臣は冷静な表情を繕いながら振り返った。

久美子は利口な女ではない。だからこそ、楽に利用してこられたのだ。だが、ここまで馬鹿な女だとも思わなかった。

藤臣の顔を潰せば、モデルとしての仕事を失うどころではない。
高額の違約金や慰謝料を請求される可能性があることに、なぜ気づかないのだろう。

このとき、藤臣は久美子の妊娠発言を全く信用していなかった。
久美子はピルを飲んでいるはずだ。そうでなくても、彼自身が避妊を忘れたことなど一度もない。

だが、問題はこの場所だった。
婚約披露を兼ねたパーティの席上で、周囲には招待客が大勢いる。

そして、婚約者の愛実も傍らにいるのだ。

ここで藤臣が激昂して、愛人関係を肯定するような発言でもしようものなら……まさに修羅場だろう。

一刻も早く、久美子をこの場所から排除しなくてはならない。

ところが、その内容が内容なだけに、瀬崎たちは久美子の腕を取ることすら躊躇していた。


「この間、あたしの部屋に来てくれたときの子供じゃないわ。ほら、この子は先月……そう、香港に行く前に授かったのよ。ピルも完璧じゃないのね。あなただって心当たりがあるでしょう? あのとき、とっても無防備に愛してくれたわ。あたしにはあなたの子供がいるのよ!」


藤臣が反論できず、瀬崎たちも動けないのをいいことに、久美子は言いたい放題だった。


「もちろんわかってるわ。会社の事情で婚約を押し付けられたんでしょう? でも事情が変わったのよ。政略結婚をやめて愛する女性を選んだって言えば、世論は喝采するわ。ね、藤臣さん、あたしと子供を捨てないで……」

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