十八歳の花嫁

第10話 欺瞞

第10話 欺瞞





「子供は君の好きにするといい」


藤臣はいささか投げやりに言った。

その瞬間、久美子の表情がパッと変わる。すぐに繕うが、生来の狡猾さなど簡単に隠せるものじゃない。


「嬉しいわ! 産んでいいのね。じゃあ、もちろん結婚してくれるのよね」

「勘違いするな。私が妻にするのは愛実だ」


久美子は目を剥き怒鳴り始めた。


「あたしのお腹には子供がいるのよ。あなたの子供が! 忘れたの? 香港に行く前の夜、確かにあなたは避妊しなかったじゃない! あのときの子供よ。ゼッタイ間違いないんだからっ!」


藤臣は苦虫を噛み潰したような顔で久美子から目を逸らした。

愛実と出会って間もなくのころだ。
弥生の邪魔が入り思いどおりに事が進まず、また、愛実に妙な欲望を感じて持て余していた。
いつもなら、付け込まれる隙など作らないはずが……ほんのわずか油断した。

久美子が妊娠のチャンスを狙っていたのは知っていた。
わざわざ病院を指定してまで処方させていたピルだが、実際のところ飲んでいなかったに違いない。

だが、それも何秒かで我に返った。
すぐに彼女から離れ、中にも射精(だ)してはいない。確率は限りなく低いはずだ。

とはいえ、性的関係があった以上、女が言い張れば泥沼になるのは目に見えている。


(クソッ! 忌々しい!)


藤臣は戻って来た瀬崎に合図して調査書類を出させる。
瀬崎は何か言いたげな顔つきで、茶封筒をブリーフケースから取り出し手渡した。

こういうときに備えていた書類だ。
できれば使わずに済むことを願っていた。


「久美子……シュンと言う名前の二十二歳のホストは知ってるな」

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