十八歳の花嫁

第10話 魔性

第10話 魔性





八十万円くらいすぐに返せる。
愛実はその言葉を真に受けていた。

だが、少し考えればわかることだ。それほどお金になるなら、あの連中が簡単に手放すはずがない。
愛実の稼ぎだと言って母に毎月お金を渡し、それを彼女の借金にすれば……。美馬の言うとおり、愛実が自由になる日は来ないだろう。

美馬に感謝すべきなのかもしれない。
でも、愛実はどうしようもなく悲しかった。

娘がそんな酷い目に遭うと知れば、母は反省するだろうか?
それとも……知らなかった、自分のせいではない。母なら、そんな風に言うかもしれない。

どうしてこんなことになったのだろう。尚樹を高校に行かせるお金もなく。日々の生活にも困っている。
それにもし、母がまた同じような業者から借金でもすれば……。
今度こそ、美馬の言うとおりになるだろう。


愛実は全身の力が抜けたようになる。
そのまま床に膝をつき、制服のスカートを握り締めたまま、涙が頬を伝った。


(全部、わたしのせいなの?)


四畳半二間とキッチンのアパートでは、祖母の面倒はみられないと思った。
高額のホームに預けたのは愛実の判断だ。
五年も経てば生活も落ち着く。そのころには母も愛実も働いているだろう。
尚樹が大学に行きたいなら、自分で働いて学費を稼いでもらおう。真美も高校生、慎也は小学生だが自分のことは自分でできる歳になっている。
父の残った保険にはなるべく手を付けず、高校までの学費として……。

現実には、貯金は底をつき、借金だけが増えている。

スカートの上にポトポトと涙の雫が落ちた。


そのとき、急に辺りが暗くなった。顔を上げると、美馬が立ち上がり、愛実の頭上から覆い被さっている。
そのせいで、影になっただけだった。

しかし、次の瞬間、愛実の身体は宙に浮いていた。

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