十八歳の花嫁

第11話 邪心

第11話 邪心





「まさか、デパートに呼ばれたとは思いませんでした」


愛実が帰り、午後になって秘書の瀬崎が東部デパートまでやって来る。瀬崎は本社専務としての第一秘書なので、美馬の代わりに本社に居ることのほうが多い。

瀬崎は、愛実をデパートの社長室に呼んだことが不満のようだ。社員の口から、祖母や伯父らに知れる、と言ったところだろう。

それ以前に、瀬崎は愛実に近づくこと自体がやめさせたいようではあるが……。


「ああいった良家のお嬢様には、目に見える格式が必要だろう? 案の定、私がこのデパートの社長に間違いないとわかった途端、目の色が変わったぞ」


美馬は愛実の表情を思い出しながら答える。
彼女は信じられないほど無防備だ。ほんのわずか、美馬が笑顔を見せ言葉を変えるだけで、コロッと信用した。
例の電話がなければ、あの場でイエスが聞けただろう。

それは美馬の目には、女の打算と浅はかさに映った。


彼は知らなかったのだ。
必死で家族を守り続け、誰にも守られたことのない愛実にとって、美馬は救世主であり、英雄であり、正義の味方に見えたことを。


「社長……西園寺愛実さんは誠実で善良な少女です。騙して、傷つけることだけはやめていただけませんか?」

「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。昨夜だって、俺は彼女を助けたんだ。違うか?」

「昨夜だけならそうでしょう。しかし、五十万の見返りを考えると」

「何も求めちゃいないさ。あらゆるものを提供して、しかもセックスは強制じゃない。親切この上ない提案だ。俺以外だと……こうはいかないだろうな」


従兄弟の顔を思い浮かべながら、美馬はそんな言葉を口にする。
正確には義理の従兄弟だ。


「大奥様はご存じなかったのでしょうか? 現在の西園寺家の窮状を」

「……さあ、な」


眉根を寄せる瀬崎から顔を背け、美馬は煙草に火を点ける。

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