十八歳の花嫁
最終章 愛は信じるもの

第1話 窮地

最終章 愛は信じるもの





第1話 窮地





「なんで、今、なんだ! どうして今になって」


恭子が引き上げ、瀬崎の前で藤臣は何度も同じ言葉を繰り返した。


「瀬崎――彼女が美馬の婆さんと繋がっている可能性は?」

「ない、とは言い切れません。ですが、事実は事実です」


瀬崎は淡々と答える。
なるべくマスコミに知られまいと、普段利用しない高級ビジネスホテルのスーペリアルームを使っていた。
部屋はそう広くはなく、調度品もごくシンプルなものばかりだ。
藤臣は立ち上がると白い小型冷蔵庫の扉を開き、缶ビールを取り出してひと息に呷る。

まるで水を飲んでいるようだ。
なんの味もせず、おそらく何本飲んでも酔えないだろう。


「社長、このことが外部に漏れたら……」

「わかっている」


藤臣は今年の八月に三十歳になる。
恐ろしく若い年齢で社長に就任することが決まっていた。

ただ、彼の年齢がネックとなり、傘下企業や取引先銀行、株主、本社の重役まで反対者は多い。
藤臣が本社の大株主であること、先代社長のひとり息子であること、そして現会長である弥生のバックアップ。それらの条件が整い、やっと漕ぎ付けたものだった。

それがもし、彼に責任はないにせよ“隠し子”の存在が発覚したら……。

元々敵の多い藤臣のこと、ターゲットは絵美だけでは済まないだろう。
博之も藤臣の子供ではないかと騒がれ、否応なしに恭子親子を巻き込む羽目になる。
反対勢力はここぞとばかり、藤臣の様々な過去まで引っ張り出し、再び後継者問題が勃発するのは目に見えていた。


「愛実様のことは……どうなさいますか?」


瀬崎がポツリと呟く。

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