十八歳の花嫁

第6話 切願

第6話 切願





深夜の病院ほど心細さの募る場所はない、と愛実は思う。

彼女は東恭子が運ばれたという病院までついて来ていた。


「瀬崎、恭子は無事なんだろうな?」

「何もわかりません。子供が昼間からベッドで眠ったままの母親を案じ、ホテルのフロントに連絡したようです」


愛実は由佳に教えてもらい、恭子たち親子を見に行ったときのことを思い出していた。

おそらく、あのホテルにずっと隠れるようにしていたのだ。子供たちは何日も学校を休んでいるのかもしれない。それを思うと胸が痛んだ。


瀬崎の手配で、美馬グループの影響力が大きい病院に恭子は運ばれていた。

病院に着くと、睡眠薬を適量より少し多めに、それもアルコールと一緒に飲んだせいだと医者は説明する。
恭子もすでに意識が戻っており、医者の質問にも『量を間違えただけ』と答えたという。

それを聞きながら、横で安堵の息を吐く藤臣に、愛実は切ないものを感じていた。


処置室の前の廊下にベンチが並んでいた。
そこには母を心配する十歳の少女と四歳の少年の姿が。その姿は父が亡くなったとき、病院の廊下で震えていた愛実たち兄弟に重なった。

二年前の五月、愛実たちの父が自宅で倒れ、病院に運ばれた。
父の事業の資金繰りを心配していた祖母は、驚いた様子で家の中をただウロウロ歩き回り、母は父の傍に座り込み泣くだけだった。
愛実が救急車を呼び、父の名を呼びながら家族を励ました。
病院の廊下はひどく無機質で、冷たく感じたのを覚えている。

結局、父は一度も意識を取り戻すことなく、翌日には帰らぬ人となった。
愛実は詳しい病名まで聞かされてはいないが、ストレスが原因の心臓発作だったという。

祖母と母が呼ばれ医者の話を聞く間、愛実たちは廊下のベンチに座り……ただ、震えていた。
中一の尚樹は小学生の真美の手を握り、愛実は眠ってしまった四歳の慎也を抱えて。

あのときほど、人の温もりが欲しいと願ったことはなかった。

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