十八歳の花嫁

第9話 真相

第9話 真相





結婚式当日――美馬邸は静かな朝を迎えていた。

花婿になるはずだった藤臣の部屋には誰もいない。モデルルームのような室内は、主を失ったかのようにシンとしている。彼が朝食の席に着くこともなかった。
藤臣は式への参列も強制されてはおらず、弥生をはじめ誰も彼の名前を口にしなかった。

その一方で……。
和威は一睡もせず、窓の外が黒から水色に変わる間、自室のソファに座り中空をみつめ続けていた。


――愛する女性を妻にする。


それは真実であるはずなのに、どこか虚しさが漂う。
和威の心はほんの数日前の藤臣と同じく、虚空を掴むように、必死で腕を伸ばしていた。

欲しいものを手に入れる。
手段など関係ない。本当に望んでいるものは力尽くで奪う。
一旦手に入れたら、誰を傷つけたとしても決して離してはいけない。

それは、悪意の連鎖に囚われた美馬家で生きるための、悲しい手段だった。


美馬家の呪縛から逃れられない人間、その最たるものが弥生だ。
リムジンが玄関口に横付けされ、弥生は杖をつきながら後部座席に乗り込む。その後ろには和威の姿も見えた。

突如、猛スピードで美馬の正門を抜け、リムジンの後ろに急停止した車が一台。

その運転席から転げ落ちるように飛び出してきたのは、藤臣の秘書、瀬崎幸次郎だった。


「美馬会長、お話があります」


瀬崎は肩で息をしている。
走ってきたのは車だ。それは、いかに彼が興奮状態であるかを示していた。


「瀬崎と言いましたね。見てわからないのですか? わたくしはこれから、和威さんの結婚式に出席するのですよ。話は後日聞きましょう」


そう言うと弥生は手で払う仕草をした。

門脇の警備室から駆けつけた警備員が瀬崎の腕を掴もうとする。


「あなたはご自分が何をしたかわかっていらっしゃるのですか!? なぜ、美馬の家とは一切関係のない東さん一家まで利用して……。愛実さんもそうだ! 半世紀以上前に西園寺家の方が何をしたかは知りません。でも、愛実さんにはなんの関係もない! 美馬社長もそうです。生まれてきたのは彼のせいじゃない! なのに……いつまで彼を傷つければ気が済むんだ!」


それは、瀬崎の血を吐くような訴えだった。

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