十八歳の花嫁

「和威のところまで一緒に行ってやる。君は弟妹を守りたいんだろう? それができるのは俺じゃない。俺は……」

「じゃ、藤臣さんのことはわたしが助けます。わたしには弟たちがいるけど……でも、一生懸命頑張りますから」

「……君は、何を言ってるんだ?」

「暁さんが教えてくれたんです。藤臣さんが、わたしともっと早く会いたかったって。でも、わたしは今でよかったと思っています。だって、そんな小さいころにお会いしても、藤臣さんのお嫁さんにはなれないでしょう?」


愛実は首を傾げてふわりと微笑む。


「いや、そんなことじゃなくて」

「わたし、藤臣さんのことを信じています。藤臣さんから離れなきゃならない理由がなくなったのに、離れるのはイヤです!」

「だから……俺には絵美だけじゃない。心当たりだけなら山のように」


余計なことまで口にし、藤臣は舌打ちした。愛実相手にはどうも正直になりすぎる。


そのとき、愛実は藤臣の近くまで駆け寄った。

そしてようやく、藤臣の目にも真実が映ったのだ。
純白で傷ひとつなかったドレスは、間近で見るとかなり汚れ、しわくちゃになっている。所々、ほつれや破れが見えて……それは愛実の表情と同じだった。

遠目には変わらぬ笑みが、近寄ると見るからに憔悴の色を纏っている。
薔薇色の頬が青白く痩せこけ、眼の下の隈も痛々しい。

それはとても十八歳の少女とも、結婚式を終えた花嫁のものとも思えなかった。


「でも過去でしょう? 今も、未来も、わたしだけですよね? 一日も早く結婚して、藤臣さんの子供が欲しい。そうしたら……子供が可哀想だから、別れたくないって言えるもの」


疲れきった顔で……それでも愛実は胸を張り、藤臣を正面からみつめて笑いかける。


「大丈夫です! わたし、貧乏はへっちゃらですから。高校は辞めて働きます。入院費用が足りなくなったら、おばあさまは家に引き取って、姉弟で面倒をみます! 苦しくても、お互いに助け合ったら、きっと幸せになれると思うんです」

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