十八歳の花嫁

最終話 愛実

最終話 愛実





あたふたと過ぎた十八歳の夏が間もなく終わりを告げる。

愛実は鏡の中で微笑む少女をみつめ、きゅっと唇を閉じた。
すると、彼女も少し深刻ぶった表情になる。だが、今日という日くらい、憂いのない笑顔を見せてもいいのではないだろうか?

そう思い直して、鏡に映る少女――愛実の頬がふわりと綻ぶ。

彼女はこの日、人生で二度目の結婚式の朝を迎えたのだった。



瀬崎の、信二が逮捕されたという一報は嘘ではなかった。

容疑は有価証券取引法違反――インサイダー取引だ。
起訴は間違いないという。
信一郎も父親の犯罪に加担しており、藤臣らの説得で帰国、警察に出頭した。これには先代社長である一志の関与も大きく、被疑者死亡で起訴されるという。

当初、創業者一族による計画的犯罪と言われ、藤臣も疑われたのだ。
しかし、彼に関する犯罪の証拠は出て来ず、立件されなかった。

世間の目はそんな藤臣を、そう簡単に無罪放免とはしてくれなかったのである。


辞意を撤回し会社に残った藤臣は、世間の非難を一身に浴びる破目になった。

婚約破棄や隠し子問題、過去の女性関係、施設職員に対する性的暴行という偽りの事実まで新聞や雑誌に書き立てられた。
それはまるで、藤臣が上手くやって罪を逃れたかのようで……。

愛実は憤慨したが、藤臣はそれらに関して一切の釈明をしなかった。


『美馬グループは製造や流通ではなく、サービス業に比率が傾いている。イメージダウンは必須だが最小限に抑える必要があるんだ』


それはつい先日まで会社を潰すことに全精力を傾けていた男の言葉とは思えない。


『いざ崩壊するとなったとき“ざまあみろ”とは思えなかった。美馬の家と社員を守りたい』


彼はグループと社員の生活を考え、非難を自らに向けさせる工作をしたのだ。

七月、臨時の株主総会が開催され、創業者である美馬の人間は、全員が経営陣から撤退した。外部から社長を招き、グループは新生を図るという。

それに伴い、矢面に立った藤臣は役職を解かれ、十月から北海道に転勤が決まった。

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