十八歳の花嫁

第8話 出張

第8話 出張





『じゃあ、彼女の望みを叶えてやったわけか……さぞかしおまえに感謝しただろうな』

『私は社長の代わりに応対しただけです。愛実さんは社長に会いに来られたわけですから』


香港のビクトリア湾を一望するホテルペニンシュラ。二十一階のハーバービュースイートから湾を見下ろしつつ、藤臣は瀬崎の報告を受ける。


『明日には戻る。わざわざ俺を香港に追っ払ったんだ。何か企んでると思ってたんだが……今のところ、動きはなし、か』

『はい。ただ、計画はあったようです。どうやら和威様が迷っておられるらしく。愛実さんの気持ちが社長に向いているのであれば、自分に出る幕はないとおっしゃって』


それは藤臣の予想どおりだった。



藤臣が美馬佐和子の養子になったのは彼が十五歳の時。
当時、和威は十歳だった。

和威の母・千穂子は結婚してすぐに妊娠が判明。
あまりに早い妊娠だったため、見合い結婚の夫は疑問を持った。
調査の結果、結婚前の妊娠が発覚。千穂子は即座に離婚させられた。ふたりの関係は結婚後だったらしい。

和威は出生直後に、戸籍上の父親から嫡出否認の訴えを起こされ、私生児となった。

その二年後、千穂子は再婚。
母親は和威を実家に残し、嫁いで行った。

現在では、再婚相手との間にふたりの子供を儲け、家族四人で幸せに暮らしている。和威がこの二十三年間で母に会ったのは、わずかひと桁にすぎない。

弥生はそんな和威の母親代わりとなって育てた。

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