十八歳の花嫁

和威とテーブルを挟んで正面のソファに座る。藤臣はテーブルの上に置いてあるタバコケースから、無造作に一本抜き火を点けた。

藤臣の突き放した言い方に、和威はムッとしたようだ。


「そういう言い方はないだろう? 僕だって候補者なんだよ」


愛実と会い、話をしたことが原因らしい。
和威の中で、彼女の存在が大きくなりつつあるのが傍目にもよくわかった。


「だったらなんだ? 愛実が選ぶのは私だ。第一、おまえに結婚は不可能なんだろう?」


一瞬で和威の頬は紅潮し、数秒後には気色ばむ。


「違いますよ! ただ信一郎さんや藤臣さんみたいに、女性をセックスの対象だけとは思いたくない。それに、どんな人間の血が流れているかわからない僕に、子供を作ることなんて……。だから、女性との付き合いも、結婚も考えないようにしているだけです!」


私生児であること。
和威のコンプレックスの源はそこだ。
彼は藤臣にも同じものを感じていたが、それは和威の思い込みにすぎない。

藤臣も私生児だった。
だが、三月初めに亡くなった美馬一志は、遺言で藤臣を実子として認知した。

藤臣は和威の義理の従兄ではなく、血の繋がった叔父にあたる。和威と宏志を除く美馬家の人間と、長倉弁護士、本社重役が知っている事実だ。

美馬一志は藤臣にかなり有利な相続権を与えた。
それは遺留分を差し引いても、半分以上を彼が受け取る計算だ。さらには次期社長の椅子も、ほぼ藤臣に決まっていたのである。

だが、藤臣が欲しいのは“美馬家のすべて”だった。


「だったら、愛実との話も考えないようにするといい」


ひと言答えて、藤臣は煙草の火を灰皿で押し消した。
眉根に皺を寄せ、煙を吐き出す。

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