優しい胸に抱かれて
明日はどこかに出掛けようと言われ、私は以前連れて行ってもらった灯台に行きたいことを告げた。次の日の日曜日はお昼に映画を観てから、約束通り夕陽を見に行った。
運転している彼の横顔が好きだった。
じっーと見ていると『こっち見過ぎ』って、困ったように笑う。
『緊張してるからですか?』
『恥ずかしいから』
『え…、恥ずかしい? だって、運転中は見られると緊張するって』
人を乗せているだけで緊張するって言っていたのに、恥ずかしいって。
『…それは、好きな子にじーっと見られて恥ずかしかったから、…言い訳だよ』
『そ、そんなこと言われたら、私まで恥ずかしくなりますっ』
『あははっ。また、敬語になってる』
『あ…、ごめんなさい。主任に敬語使わないって、慣れないです』
『また、敬語。それに、また主任って』
『…こ、紘平。な、名前で呼ぶのも慣れませんっ』
『あははっ。その困った顔を見れるなら、まあ、いいか。そのうち慣れるよ、ゆっくりでいいから』
私を困らすのが得意なのか、こうして時々困らされた。だけど、嬉しかったのは、困った後で必ず、頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
傾いていく夕陽を眺めながら、やっぱり私は彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。
『主任はどうして建築士になったんですか?』
『いつも図面が転がってるような家で、線を数字がいっぱい書かれててさ。小学生の頃、それまでなんの興味もなかったのに広げて見たときに、設計図を描く人になりたいって漠然としたもので、それが建築士って仕事なのはずっとあとになってから知ったんだ』