Addictive Gummi
グミの苦い記憶
落ちぶれアピールが露骨だったゆうひ工場長を結局見捨てておけず、半ば自棄気味にうちへお招きした。
自分でも、大胆で無謀な行為だと思う。馬鹿馬鹿しくも思う。
お互い恋愛感情が芽生えてもいないのに、冗談みたいに婚約を交わして、出会って四日目で同棲がスタート。
しかも相手はワケアリで、人事降格して家出中。
結婚相手として優良物件どころか、得体の知れない爆弾を抱えこんでしまった気分だ。
“婚約解消する? 浅沼さんが気に入ってた僕のランク、下がっちゃったし”
そうしますと答えて手放せば、無関係になれるんだろうけど。
どこかで関わていたいと、まだ思っている自分の未練がましさに気付かされた。
本当に未練がましい。
“そんな相手がいるとは、全然知らなかったな。どうも、弟がお世話になっているようで”
あさひ部長は、私の顔を覚えてもいなかったというのに。
「そういや浅沼さんって、うちの社員なのにアディグミ食べないよね。珍しいね」
食卓でパソコン仕事をしてたゆうひ工場長が、ふと思い出したように手を止めて言った。
『アディグミ』というのは、スウィンプトの主力商品で、正式名称はアディクティブ・グミ。
『アディクティブ』は英語で、『病み付きになる、中毒性の』という意味で、病み付きになるほど美味しいグミというわけだ。