好きと言えなくて
メイクのお姉さんが化粧品のサンプルをくれた。


元が可愛いから化粧品すればもっと可愛くなるわと言われ浮かれてると、本気にするなと、田城ちひろに言われてしまう。


分かってるけど、本当に嫌みしか言わないんだから。


あんなに優しかった智尋兄さんは何処へ行ってしまったのか。


智尋兄さんと初めて会ったのは12年前。


私が6才で智尋兄さんは14才の中学生だった。


初めてましてと挨拶をすると、優しい笑顔で今日から綾華の兄さんになるからよろしくと握手したことを覚えている。


私が虐められて帰るといつも話を聞いてくれ、俺が綾華を守るから泣くなと抱きしめてくれたよね。


新しいお母さんの存在も嬉しくて、たくさん甘えた。


楽しかった生活に突然別れがやって来て、父さんと咲良母さんが離婚をした理由はいまだに知らないまま。


智尋兄さんは知っているのかな。


別れの日に智尋兄さんと約束したことを忘れた事はないけど、多分智尋兄さんは覚えていないだろうと思う。


あの日智尋兄さんは私に言った。


《直ぐには無理だけど必ず綾華を迎えに来るから、いい子にして待っているんだよ。》

一年、二年、何年たっても智尋兄さんが、私を迎えに来る事はなかった。


でも、咲良母さんが迎えに来てくれてから。

私は一人ぼっちにならずに済んだ。


どんな形にしろ、こうして又智尋兄さんと一緒にいれる事が嬉しい。


だって、私の初恋は智尋兄さんだから。


好きだと言えないまま10年が過ぎてしまった。












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