本日ヒーロー不在につき
「う……っ三郷くん、ほら私、彼氏と別れたばっかりだし……っ」

「だからだろ。なぐさめてやるよ、カラダで」



ぺろりと舌なめずりをして、メガネの奥の瞳が弧を描く。



「けど、おまえが好きな王子だかヒーローみたいにやさしくしてやらない。泣くまで激しくして、忘れられなくしてやるから」

「は……ッ、」



あまりの言葉に、一瞬抵抗を忘れて彼を見つめた。

顔が熱い。恥ずかしすぎて涙がにじむ。

そんな私を見下ろす彼は、なんだかとても楽しそう。



「なんだ、結構ちゃんと俺のこと意識してんじゃん。あとはもう、カラダで陥落だな」

「三郷くんさっきから発言ひどいよ?! ヒーローっていうか当て馬とか悪者のセリフだよ?!」

「別にいーよ当て馬でも。最終的にそのヒーローから奪えれば」



ちゅっと、頬にキスをされる。

子どもがするようなそれにでも、馬鹿みたいに私は顔を赤くして心臓を高鳴らせてしまう。



「まあ、どうせもうヒーローなんて、いないけどな。なぜならおまえが今日振られたから」

「うう、鬼畜……っ」

「今までもいない。これからも現れない。だからいい加減、俺にしろよ」



耳元でささやいて、私の髪を撫でる。



「笹原がすきだ。王子でもヒーローでもないけど、俺をおまえの彼氏にして」

「……ッ、」



ずるい。ひどい。こんなのずるい。

でも、この胸のドキドキは現実で。思いがけず真摯な彼の告白に、体温が上昇してしまっているのもまた事実で。
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