名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
おごってもらったココアを飲みながら、並んで歩く。


なんだか知らないうちに、あとは会うだけだってすっかり勘違いしちゃってたところで、もう一日あるって気づいて愕然として。

どうしようどうしよう、帰りは何話そうって心配したものの、問題なく、至って普通に会話が弾んだ。


「明日、晴れるかなあ。雲行き怪しいね、なんか」

「晴れるといいよな。一応、天気予報は晴れか曇りって言ってるけど」


今の空は少しだけ曇っていて、夕焼けに灰色が多い。


いつもは綺麗に反射する夕日がかげって、アスファルトは黒っぽいままだ。


「まあ、あれだ。もし雨降ったら、日曜日にしよう」

「うん、そうだね」


何気ないそうちゃんの提案に、こちらも努めて何気なく頷く。


バレないように深く息を吸ってから、そろりと吐いた。


「日曜日も雨だったら来週とかどう?」

「俺は日曜日も来週の土曜日もあいてる。佐藤さんは?」

「わたしもあいてるよ」

「そ。じゃあ安心だな」

「だねえ」


そうちゃんはこちらを向かない。真っ直ぐに前を見ている。


だからわたしも安心して、歪んでしまいそうな声を明るく保つことだけに気を配った。


「明日はよろしくね。楽しみにしてるね!」

「ん。よろしく」


そうちゃんをちらりと横目で伺ったけど、やっぱり前を向いていて、九割の安堵と一割の寂しさが込み上げる。


朝は、『おはよう。起きてる?』。

昼は、『飯、何食った?』。

夜は、『ただいま』と『おやすみ』。


連絡すると宣言した夕方から、会話が増えた。


『おはよう』と『おやすみ』を言えるのが、朝一番早くと夜一番遅く話すのがそうちゃんなのは、わたしの気分を昂らせている。


……幸せだな、と、思う。

幸せで、嬉しくて、感慨深くて、だけどどうしても、足りないと思ってしまう。


わたしは結構欲張りだ。
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