名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
待って、ちょっと待ってそうちゃん。


違うんだって。


手汗を気にしてるんであって、手を離したいわけじゃないし、危ない目に遭いたいわけでもないから。

逃げようとしたんじゃないから。


「明日の朝、七時集合」


及び腰なわたしの手を、有無を言わさず恋人つなぎにするそうちゃん。


多分、抜けにくいようにだろうけど。


……くそう。嬉しいとか、嬉しいとか思っちゃったじゃないか。


わたしはこういうのに弱いんだ。


肩が触れる距離は保つのに、握った手に力を込めたり、足早に大股で歩いたりはしないそうちゃんの隣を、うつむきながら歩いた。


今わたしは、ものすごく緩んだ顔をしている自覚があった。


手をつないだり、約束を結んだり、朝、そうちゃんの隣を歩くことさえも、わたしにとっては一つ一つ新鮮で、大切で、どこか懐かしくて、甘いものだったから。


「七時に家出て。七時なら起きられる?」

「うん」

「危なすぎだから一緒に行く。いいよな?」

「もちろん!」


全然問いかけじゃなくって、もはや決定事項、事後報告なそうちゃんのお言葉に、思わず喜び勇んで即答すると。


「自分でも危ない自覚があるとかどんだけなんだよ……」


いや違うよそうちゃん、そうじゃない。
< 218 / 254 >

この作品をシェア

pagetop