名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
手を引かれて、くるり、そうちゃんに向き直る。


「俺にも返事くらいさせてよ」


そうちゃんが苦く口角を上げた。


「……うん、ごめん」

「ていうか、言い逃げ禁止だから」


そうちゃんの苦笑いがあんまり心臓に悪くて、落とされた言葉があんまり甘やかで、耐えられない。


「……禁止と反対、どっちなの」


思わず可愛くないことを言えば、瞠目したそうちゃんは、ゆっくりまなじりを緩めた。


「禁止かな」


そっと手が離れる。


「で、美里はもう寝んの?」

「……まだ寝ない」


やっぱり寝ないんだ、とおかしそうに肩が揺れた。


「俺さ、こんな時間におやすみって言われるとは思わなかった」

「いいじゃんいいじゃん、会って言いたかったんだよ」


くつくつ喉の奥で笑ったそうちゃんは、意地悪な微笑みを浮かべてわたしを覗き込み。


「おやすみ、美里」


柔らかに、そう言った。


「笑ったくせに」

「俺も直接会って言いたいなって思って」

「……そうですか」

「そうですよ」


だから、もっかい。


「おやすみ、美里」

「……おやすみ、そうちゃん」


今日もいつものように、お隣の扉は、しばらくしてから閉まる音がした。
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