名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
夜、夢を見た。

何度も見てきた、叶わない恋の夢だ。


『高校、どうすんの』


幼なじみの男の子との、幸せで長い、初恋の夢だった。


『だって、暗いの駄目じゃん』


かつて普通だったやり取り。


『好きな人、いるけど』


消えてくれない思い出たちが巻き戻る。


『行くよ』

『うちに泊まれば』

『ばーか、うっさい』


——夢の中でわたしは中学生になり、


『早く。遅いんだけど』

『隣来ないの?』


だんだんと小学生になり、そして、


『みいちゃん』

『おれがいる。おれがいるじゃん』


幼稚園児になった。


小さな手のひら。

小さな背。

そうちゃんが好きだった青と黒。

今なお懐かしく憧れる、舌足らずな呼び名。


少しずつ更新される夢を見る度に訪れる胸の痛みには、もう慣れてしまった。


痛くて、切なくて、苦しい。


それでもよかった。


わたしがまだ初恋を引きずる間は、このまま何度も夢に見て構わないから、ただ変わらずに抱きしめていたかった。
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