名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
あんなことがあったけど、そう簡単に何かが劇的に変わるはずもなかった。


しかもそうちゃんは多分、あれ意識してないし。無意識でやってることだろうし。


ふくらむわたしの淡い期待をやっぱり華麗にスルーして、染みついた日常はそのままであり続けた。


「行くよ」無言。「じゃ」でおしまい。


次の日も、次の次の日も、その次の日も同じ。


親しんだ一連の流れに不満はないけど、ほんの少し正直に言うと、寂しい。


わたしたちの思い出は、一部分だけひどく共約的だ。


まばゆく輝く思い出たちを、わたしは一人、大事に大事に抱えている。


そうちゃんに、宝物なんだよって本当は言いたい。


そうちゃんに、宝物ですかって本当は聞きたい。


辺り一面オレンジ色に染まって、少し肌寒い風が吹いて、ひゅうと耳元で音がする。

二つの靴音が揃って、たまに石ころを蹴飛ばしちゃったりして、おんなじ方向に歩く──


そういう今も更新し続けている記憶を、絶対に落とさないように両手にきつく抱きしめて、わたしの一番の宝物なんだよってそうちゃんに言ってみたい。


あんなことをした、こんなことをした、覚えている限りの全部をそうちゃんと温め直してみたい。


積み重ねてきた思い出をわたしだけが大事にしているんじゃなくて、そうちゃんも大事にしていてくれたらいいのにな。


声変わりしてがらりと低くなったあの声が、静かにわたしを呼ぶのを想像する。


みいちゃんと呼ぶのを、何度も何度も想像する。
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