オフィス・ラブ #Friends

「ないね」

「じゃあ、してくれる?」



うん、と答えると、堤さんは嬉しそうに笑って、あたしの頭をぎゅっと抱き寄せた。



「でも、その前にさ」



言いながら、なんとかその腕から抜け出て、堤さんの肩に手を置いて、目を合わせる。



「キスしてよ」

「残念だけど」



もう、した。


至近距離で、涼しげな顔が、ふんと笑う。

てめえ、言わせといて、それか。

ノーカンだって、自分で言ったじゃないか。



「じゃあ、いいよ」

「いいんだ」

「あたしがするから」



バカにするように笑っていた唇を、飛びついて奪うと、堤さんは一瞬、呆然としたように、されるがままになって。

その隙に、ようやく味わうことのできた、形のいい唇を、遠慮なくむさぼった。



ものすごく煙草くさいけど、これはこれで、いいかもね。

間近に、自分とは違う肌の匂いを感じる。

これだから、キスは好き。



まだ湿っている髪を、ぎゅうと引かれて、仕方なく身体を離した。

少し息を弾ませた綺麗な顔は、満足と不満の半々みたいな複雑な表情で。

ああそうか、主導権ね、失礼しました。



「元気になったようで、なによりだよ」

「でしょ」



少し片目をすがめて、嫌味に言われるのに、平気な顔して返してみる。



「生意気」

「そこが、好きなくせに」



ふんと笑い返してやると、堤さんは、降参したように苦笑しつつ、軽くうなずいて。





「大好きだよ」





自分にあきれてるみたいにそう言うと、あたしの顎に、長くて綺麗な指を添えて。

永遠に終わらないんじゃと思えるくらいの、熱くて甘い、キスをくれた。



< 56 / 66 >

この作品をシェア

pagetop