オフィス・ラブ #Friends
なんでだか、いまだにわからない。

どうして、淳さんじゃダメで、彼ならよかったのか。

バツイチだったから?

ううん、そんなのまったく関係ない気がする。


きっと堤さんは「そう」なんだ。

よくわからないけど。


ああまた、間違えた。





「あ」



恵利がいないので、ひとりでランチに出ようとしたら、エントランスで彼を見つけた。

鞄を持っているから、外出するんだろう。


堤さん、と声をかけようとして、ペナルティを思い出し、でも場所柄、名前で呼ぶのははばかられて。

結局声をかけられず、半端に手を上げたまま、迷っているうちに、真後ろまで来てしまった。

無言で背中を叩くと、びっくりしたように振り返って、あたしが呼びかけられなかった理由に思い当たったらしく、失礼にも吹き出した。



ご機嫌だね、と上着を脱いだ姿で、蕎麦湯を飲みながら言う。



「狙ってた、いい面を買えたの。なじみの営業部が、うまく売ってくれそうで」

「いいね、うちも少し拡充したいんだけど、新規の雑誌社は、営業と雑誌局とのパイプが弱くて」

「わかる、それはこっちも申し訳なく感じることがある」



老舗の蕎麦屋は禁煙だから嫌だと言って、程よく大衆的なこのお店に入った彼は、さっそく煙草を取り出した。

火をつけながら、ひじをついた手で、だるそうに髪をかきあげる。



「さすがに、眠いね」

「だから言ったのに」



あたしも2時間くらいしか寝てないけど、そもそもこの人は、ベースの生活が違う。

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