雪見月

雪の華

そういえば、と、彼女は話題転換した。


「時計、あった方が楽ですか?」


さらり、どこか羨ましげな音色を冷気に溶かす。


「そうですね。ちょっと時間を確認したいときに便利ですよ」


模試でたまたま、時計の針が蛍光灯を反射して見にくい席のときとか、


急いで早足で歩いていて、間に合うかどうかを素早く確認するときとか。


有用性を感じた場面を振り返りつつ、首肯。


意外なところで話が広がったことに内心驚いているんだが、何とか会話を保つ。


これほど腕時計に感謝したことはない。


「友人が腕時計を着けているんですけど、よく今みたいにさっと出して確認していて」


話の腰を折ってしまわないように留意しながら、はい、ととりあえず相槌を打つ。


「私も買おうかなって思ってはいるんですけど、やはり迷ってしまって」


このご時世だ。


携帯電話が出てきてからは、腕時計を買う人が減ったのだろう。


壊れて買い直す度に印象深いが、年々売り場が狭まっている。


生産量も減少したのではないだろうか。
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