雪見月
Side:B

雪踏み

「行ってきまーす!」

「はーい、気をつけてねー!」


お弁当持った? うん、忘れ物はない? などといろいろ世話を焼く母に見送られて家を出る。


母に笑顔で挨拶をして、後ろ手に玄関の扉を閉めた。


「……う、わ」


深呼吸をして、緊張とともに顔を上げた私に、冷気が攻撃を仕掛けてくる。


前髪を煽りながらまつ毛の下を通り過ぎたものだから、一旦強くまぶたを下ろした。


風が盛んに薄い結晶を飛ばしている。


びゅ、と鋭い音をたてて、雪の群れが短く頬の側を過ぎていく。


耳元でマフラーの先端がうるさく閃いた。


急ぎ足で目的地に向かいつつ、あらかじめコートのポケットに入れておいた単語帳を取り出し。


鼻をかむ暇も惜しんで、ずず、と静かに鼻をすする。


外観と女子力の若干の欠如は今は問題ではない。


手を使う余裕なんて、今はないのだ。
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