となりの専務さん
道が空いていたからか、予定より少し早くバス停に到着した。


「病院まではどのくらいかかるの? 歩き?」

「いえ、歩きだと遠いので、タクシーを拾って……あ、姉から電話です」

バスに乗ってる約三時間、お姉ちゃんからの連絡は一度もなく、ようやく着信が来た。


「もしもしお姉ちゃん? うん、うん、あれからすぐバス乗って、今バス停着いたよ。……え?




……ウソでしょ……?」





ーー……

「ほんとごめんねーっ‼︎」

家に着くなり、お姉ちゃんが玄関先で謝った。


「でもね、何度も連絡しようとはしたのよ! けど、携帯調子悪くて! 電源すぐ落ちちゃって‼︎」

お姉ちゃんの大きな地声が玄関先に響く。疲れた体と心にはこの音声は堪えるものがあるけど、ああ、実家だなぁと思って安心もしたり。


なにより。


「ただの食あたりって……」


そう。お父さんは心労でもなんでもなかった。ただ単に、昨日野菜を食べて、病院に運ばれたとのことだった。


「それならそうとちゃんと言ってよ。お姉ちゃん、倒れて運ばれたって言うから……」

「いや、でも嘔吐も下痢もすごかったからさー。ほんとに焦っちゃって。つい救急車を」

「手術がどうのって聞こえたんだけど?」

「手術になったらどうしようって言ったかな」

「食あたりで手術なんて聞いたことないよ!」

「そのくらい動揺してたんだから仕方ないでしょ!」

ついに逆ギレされた。子どもの頃から、お姉ちゃんと言い合いになるといつも最後にお姉ちゃんにキレられて終わる。
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