となりの専務さん
そんなある日のことだった。


「係長〜、そろそろコーヒー淹れましょうかっ?」

月野さんが係長にそう尋ねると、係長は「あ、うん。ありがとう」と答えた。


席を立って給湯室へと向かおうとする月野さんを、私も席から立ち上がって引き止め。

「あの、コーヒーなら私が淹れますっ」

と言った。
早くいろんな仕事ができるようになりたい。けど、雑用したり周囲の人たちに気を回していくこともしたい。私も大樹くんみたいに、いろんな人ともっとコミュニケーションもとっていきたいし。


でも、月野さんは。

「ありがとう。でも大丈夫よ」

そう答え、給湯室へ向かっていく。


「あ、あの」

私はそれについていき、食い下がった。


「あの、やらせてください。私今、手空いていますし」

「私も空いてるから大丈夫よ」

「あの、私まだできる仕事も少ないですし、やれることいろいろやりたいと思ってて、その」

「じゃあ、あとで部長にコーヒー淹れてあげてくれる? 係長のは私が淹れるから」

「あ、それならなおさら、部長のコーヒーといっしょに、係長のコーヒーも私が淹れますよ」



……すると月野さんは。眉間に皺を寄せて、明らかにイラっとした口調で、


「いいから席戻りなさい。係長のは、私が淹れるって言ってるでしょ」


と、答えた……。



はい……と小さく返事をすると、月野さんは廊下に出ていく。



……怒らせた、かな。怒ってたよね。
月野さん、やらなくていいって言ってくれてたのに、私しつこかったかな。
でも、なんで部長のコーヒーは私が淹れて、係長のは月野さんなんだろ。



そんなことを考えていると。

「あれ……。困ったな」

という係長の声が後ろから聞こえてきた。
< 39 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop