腹黒司書の甘い誘惑
温もりにほっとして、柊也さんの背中に腕をまわす。

「もっと甘えていいよ。俺だって君を支えたいって思ってる」

「柊也さん……」

そんな風に優しく言われると、涙が出そうになる。

「じゃあ、甘えてひとつお願いしていいですか」

「いいよ。なに?」

潤んだ瞳を気にしながらゆっくりと顔を上げて、頬を緩めている柊也さんを見た。


「今夜、柊也さんの部屋にわたしも連れ帰ってください」

頬を熱くさせながら言うと、柊也さんは目を細めて唇の端を上げた。

「随分上手に強請るじゃん。誰に教わったんだ?」

「なっ……誰にも教わってませんよ! こんなこと言ったの……はじめてです」

「ふうん。……あー、結構その気になったからもう帰る」

「えっ!?」

「俺の部屋に直帰。どこにも寄らない。行くよ」

「待っ……あのっ、柊也さん!」

さっさと立ち上がって歩きだした柊也さん。
わたしは慌てて鞄を持ち、柊也さんを追いかける。

振り向いた彼はわたしを見て口許を緩めると、手を差し出してきた。

それを見て嬉しくなったわたしは、しっかりと手を握る。

彼の余裕と、『寂しい思いはさせないから安心しろ』という言葉を信じよう。

大丈夫。

この手はきっと離れない――
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