腹黒司書の甘い誘惑
***


――七ヶ月後、春。


滝城学園で事務員として働きはじめて、一年が経った。

学園は卒業式、入学式を終えて校門から校舎までは桜の花びらがひらひらと舞う。

春の初めに胸をはずませる生徒の様子を見ていると、自分の学生時代を思い出す。

新しいスタートへの期待と不安は学生だけじゃない。大人になってもあるものだろう。


「おはようございます!」

いつものように事務室へ入ると、豊子さんと美鈴さんが振り向いてわたしを見た。

そして微笑んで挨拶を返してくれる。

「理乃ちゃん、今日も元気で一段と気合い入ってるわね」

「そうですか? なんかハキハキしちゃいました」

穏やかな豊子さんを見ながら頬を掻いていると、美鈴さんがにやりとした。

「やっぱり、良い恋愛をすると女は輝くのよね」

「や、やだな美鈴さん、なに言ってるんですか」

顔が熱くなってきたわたしは、慌ててデスクに着いて照れを隠す。

でも確かに、わたしがこうして元気なのは恋人の――柊也さんのおかげだ。
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