腹黒司書の甘い誘惑
わたしを嘲笑いたくて仕方ない柊也さんの思い通りなのが悔しい。

「では失礼します!」

キッと彼を睨んで勢いよく声を出したわたしは、ドアを開けて車を降りた。

「また来週」

閉める瞬間、くすくすという笑いとともに聞こえてきた言葉にどきんと胸が鳴ったこと、本当は認めたくない、けど。

マンションの出入り口に歩きだしたとき、そっと首だけで振り向いて去っていく車の後ろ姿を見つめていた。

最低な人だと一度思ったはずなのに、どうしてこんなに心惹かれるのだろうか。

彼のことをもっと知りたいと思う。

最低だけじゃないっていうことを知ってしまっから……。

車が信号を曲がって消えていっても、わたしはしばらく道路の先を見つめたまま動かずに立っていた。
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