あるワケないじゃん、そんな恋。
「菅野ちゃん、お客さんが……」


「…あっ…すみません…!」


店長の声にハッとしてレジに駆け寄る。
閉店間際の怒濤のような駆け込み客を相手してるうちに、就業時間は来てしまった。




「お疲れ様でした〜!お先に失礼しまーす!」



ここまではいつも通り。

今日はここからが違う筈………なんだけど………。



「……寒ぃなぁ……」


深緑色の帽子をすっぽり被ってる羽田は、ブルッと身を震わせた。


「…大丈夫?羽田ってもしかして風邪ひいてるんじゃない?」


朝から調子悪かったんとちゃう?…と、計画が心配だったから聞いただけなんだけど。


「おっ!なんだ、俺の心配してくれんの?」


ニヤッと笑う。どうも心配は無用だったみたいね。


「まさか。心配なんてしないよ!」


バカバカしい…と言葉付け足す。
そんな私に溜息をついて、羽田は「あーあ…」と声を発した。


「折角いいデート考えてきたのに、菅野がそんな態度だと教えたくなくなるなぁ……どうしよーかなぁ……」


いちいちイラつかせる。何だって言うの、その態度ホントに!


「そ、そんなこと言わないで〜教えてよぉ。羽田が任せとけって言ったから、私すっごく楽しみにしてたんだからね〜!」


自分でも不気味だと思いつつ、甘えモードで堪える。
案の定、顔面に力を入れて引きつらせた羽田は、仕切り直すかのように咳払いをした。


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