ヒロインになれない!
「じゃ、今年の抱負でも書いてみる?」
と、茶目っけたっぷりに、恭兄さまが筆を貸してくださった。
うーん……
私は、半紙に向かって書いてみた。
「医食同源」
うまくもなければ、ひどくもない、普通に、慣れない筆で頑張って書いた!というだけの書き初めだった。
「……本当に、名前だけを練習してくれたんだね。」
恭兄さまが笑いをこらえて、やっとそう言った。
私は恥ずかしさでいっぱいになりながら、うなずいた。
「食生活は10年後に体に不調をきたす、そうです。恭兄さまがお元気でいられるように、毎日美味しい食事をご一緒にいたしましょう?」
完全にマサコさんの受け売りで、私はそう言った。
恭兄さまの瞳に暗い影が走り、揺れた。
「……すごくわかる気がするよ、それ。うちの食事を作ってくれてた、亡き母の乳母だったかたが亡くなって11年だ。父の癌も、そういうことなんだろうな。」
そう言いながら、恭兄さまが、背後から私の右手に手を添えてくださった。
ふわりと、懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。
墨のいい香りが、まるで恭兄さまを香水のように包んでいる。
恭兄さまの手の動きに委ね、再び白い半紙に筆を滑らす。
昔よりも繊細な文字が並んだ。
「来年、同じ言葉を書いたら、もっと力が漲るかもね。」
美しい「医食同源」に、恭兄さまは苦笑した。
「はいはーい!あとね、住所も書いて、欲しい!記帳って、名前だけじゃないから、いつもバランス悪くなってしもて。」
恭兄さまは、うなずいて、細い筆に持ち替えさせてくださった。
私は、実家とこのお家の住所をご一緒に書いていただいた。
そこでタイムリミットを迎える。
「あの、次は、かな文字もやりたいんです!教えていただけますか?」
3枚の半紙を大事にカバンにおさめ、帰り際にそうお願いした。
恭兄さまは、うれしそうに言ってくださった。
「当家は弟子も生徒も取らないから、教え慣れてないけど、喜んで。由未ちゃんが越してくるのを、待ってるよ。」
私は、心からホッとした。
なんだかうまくやっていけそうな気がする。
「じゃ、また来ます!……パンでもラーメンでも、何でもいいから食べてくださいね!」
最後にそう言って帰ろうとしたけど、
「薬臭いから、食べない。」
と、恭兄さまが仰るものだから、つい強く言ってしまった。
「もう!冷蔵庫の中のドリンク剤かて薬やないですか!」
恭兄さまはキレた私に、少し驚いて、それから悪戯っ子のように笑った。
「……由未ちゃんが作ってくれたら、食べるよ。待ってるね。」
うわぁ……。
もしかして私は、自分の首を絞めてしまったのだろうか。
と、茶目っけたっぷりに、恭兄さまが筆を貸してくださった。
うーん……
私は、半紙に向かって書いてみた。
「医食同源」
うまくもなければ、ひどくもない、普通に、慣れない筆で頑張って書いた!というだけの書き初めだった。
「……本当に、名前だけを練習してくれたんだね。」
恭兄さまが笑いをこらえて、やっとそう言った。
私は恥ずかしさでいっぱいになりながら、うなずいた。
「食生活は10年後に体に不調をきたす、そうです。恭兄さまがお元気でいられるように、毎日美味しい食事をご一緒にいたしましょう?」
完全にマサコさんの受け売りで、私はそう言った。
恭兄さまの瞳に暗い影が走り、揺れた。
「……すごくわかる気がするよ、それ。うちの食事を作ってくれてた、亡き母の乳母だったかたが亡くなって11年だ。父の癌も、そういうことなんだろうな。」
そう言いながら、恭兄さまが、背後から私の右手に手を添えてくださった。
ふわりと、懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。
墨のいい香りが、まるで恭兄さまを香水のように包んでいる。
恭兄さまの手の動きに委ね、再び白い半紙に筆を滑らす。
昔よりも繊細な文字が並んだ。
「来年、同じ言葉を書いたら、もっと力が漲るかもね。」
美しい「医食同源」に、恭兄さまは苦笑した。
「はいはーい!あとね、住所も書いて、欲しい!記帳って、名前だけじゃないから、いつもバランス悪くなってしもて。」
恭兄さまは、うなずいて、細い筆に持ち替えさせてくださった。
私は、実家とこのお家の住所をご一緒に書いていただいた。
そこでタイムリミットを迎える。
「あの、次は、かな文字もやりたいんです!教えていただけますか?」
3枚の半紙を大事にカバンにおさめ、帰り際にそうお願いした。
恭兄さまは、うれしそうに言ってくださった。
「当家は弟子も生徒も取らないから、教え慣れてないけど、喜んで。由未ちゃんが越してくるのを、待ってるよ。」
私は、心からホッとした。
なんだかうまくやっていけそうな気がする。
「じゃ、また来ます!……パンでもラーメンでも、何でもいいから食べてくださいね!」
最後にそう言って帰ろうとしたけど、
「薬臭いから、食べない。」
と、恭兄さまが仰るものだから、つい強く言ってしまった。
「もう!冷蔵庫の中のドリンク剤かて薬やないですか!」
恭兄さまはキレた私に、少し驚いて、それから悪戯っ子のように笑った。
「……由未ちゃんが作ってくれたら、食べるよ。待ってるね。」
うわぁ……。
もしかして私は、自分の首を絞めてしまったのだろうか。