【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
僕が君に出来る事-His turn-



久しぶりに夢を見た。その夢は、僕を変えたあの淋しげな公園の前に、僕が立っている夢。


夢……というよりは僕の記憶に近い。鮮明なそれは、僕の記憶に焼き付いていて離れない。


涙を堪えない事も強さだと教えてもらったあのベンチには、山鳩色のブレザーを着た少女が座っていた。


その少女の手には、その儚さには似つかわしい煙草の白と煙の白。


僕はその似つかわしい、けれども絶妙な光景を美しい、と思った。


その少女は大人になりゆく未熟な姿に、ただならぬ哀愁と儚さを持っていた。


大人ならすぐに注意すべき光景なのに、ただ黙って見ている事しか出来ない。いや、僕は彼女に魅せられて、止める気がしないだけ。


煙草を吸う為に上げた顔は、その年頃の女の子にしては大人びていた。私服で煙草を買おうものなら、未成年だとは思えない雰囲気。


特別美しい訳ではない彼女から目が離せない。少女の魅力に、ただただ僕は魅せられる。


ふう、と吐いた彼女の煙が突然視界を真っ白にし、僕の意識はホワイトアウト。


夢から覚める。僕の現実が、また秒刻みに始まる朝。
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