俺様当主の花嫁教育
「は、はい……?」


誰?と疑問に感じながらも、ニッコリ笑顔で手招きされて、私は警戒する間もなく近寄ってしまう。
そして、窓から中が見える距離まで来て、彼女が着物姿なのに気がついた。


今ここで私を呼ぶからには、御影さんに関係ある人?と連想は出来ても、やっぱり何事なのかはまったく想像つかない。
だけど彼女は、私が『笠原志麻』だということだけ確認して……。


「説明は後よ。早く乗って!」

「えっ!?」


勢いよくドアを開けて、一瞬怯んだ私の腕を掴むと、強引に車の中に引き摺り込んだ。


シートに私が転がっても、十分な広さのあるリムジン。
状況が理解できずにポカンと口を開けた私を無視して、バタンと音を立ててドアが閉まった。


「出して」

「かしこまりました」


着物美人の短い命令に、あっさり従う運転手の顔は遠くて見えない。


「ちょっ……」


私が慌てて起き上がった時には、リムジンはほとんど車体を揺らすことなく公道に向けて走り出していたのだった。
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