俺様当主の花嫁教育
今は、正装である黒い袴を身に着けている。
さっきと同じ渋い萌黄色の着物が、彼の目鼻立ちを際立たせていて、落ち着いた雰囲気を創り出している。
彼が入って来た途端、お茶室の空気が引き締まった気がした。


この茶室にいる誰よりも洗練された優雅な佇まいを見せながら、御影さんが席につく。
彼の気品ある立居振舞に目を奪われていたら、御影さんの斜めの視線がチラッと向けられるのを感じた。


慌てて顔を背けて誤魔化したけれど、彼に見惚れているのは私だけじゃない。
ちょっと年配ではあるけれど、熟練された本物の『和風着物美人』たちも、「ほおっ」と息を漏らしそうな勢いで御影さんを見つめていた。


正客と『亭主』の間で、よくわからないけど道具やら茶碗についての会話が繰り広げられる。
さすがに茶道に精通している人なんだろう。
二人の会話は専門用語が多くて、私にはイマイチ理解出来ない。


でも、千歳さんに聞いたところだと、お茶室での会話はこの正客と亭主にだけ許されているらしい。
口を挟んで質問したくなるのをなんとか堪えて、ひたすら聞くだけ、わかったような相づちを打つだけでやり過ごした。


そうして、ようやく御影さんのお点前が始まる。
『主客総礼』。
畳に手の平が全部つくように『真』のお辞儀をする。
お辞儀にもいろんなやり方があるということを、私は初めて知った。
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