【空色の未来[海色の過去]】
≪第9章 海と龍の紋章≫
凪side



カチャン…




「葵、祝いだ…飲め…」




「………。」




葵の表情には何かを言いたそうに切羽がつまった落ち着きのない態度が表れてた




「何を考えてる」




訝しげに俺は葵を見る




「祝いなんて言ってる場合じゃねえ…
アイツは帰ってきた…それは良いんだが」





葵の言いたいことはわかる…




「アイツは前みたいに笑いもしなければ、
自虐的に自分を痛め付ける…
お前も見ただろう!!
美緒が…変わっちまったって……。」




ああ…確かにな…


だがな、




「…で。」




「!?お前は苦しくねえのかよ!!」




「葵…、おめえは昔の美緒と
今の美緒を比べすぎだ…」




葵…ようく考えてみろ…




「そんでも…!!「おめえがっ…!!やってること見直せって言ってんだよ!!」」




気づけよ…葵…




「おめえは今、過去の恐怖と向き合おうとしてる美緒を否定してんだぞ…」




「……。」




こいつは馬鹿じゃねえ…
だが、
誰よりも彼奴の事を…仲間の事を思っているから受けとめるのに必死なんだ…




「辛いかもしらねえが、今やるべき事は今の彼奴を支えることじゃねえの?」




「ああ…」




それにな…




「…一番、苦しんでんのは他の奴じゃねえ
“美緒”だ…。」




「だな…」




「美緒がここへ戻ってきた…
それだけでいい」




葵は酒を飲み干すと意を決したと眼光を鋭くさせた。


あー、こいつはこういう奴だったな…

懐かしいな…伝説の“血色の黒豹”と言われてた時代を思い出すな…


まぁ今日の本題はこれじゃねえ…


彼奴が…美緒がやろうとしてること…
それを美緒にだけには背負わせねえよ。




「とりあえず…向こうが
どう出てくるかによっては
美緒を庇って死ぬ可能性もあるな…」




「そんなの光栄じゃねえの…」




カラ…ン、カラン…






コツ…コツ…コツ…コツ…






乾いた鐘の音をならして
二人のいるVIPルームに一人の男が
向かっていた…。




美緒を一番近くで護ったただ一人の男…。





ガチャ…





「よう……、待たせたな。」




凪と葵はその男が部屋に入ってくると
直ぐに頭を下げた…。




「御無沙汰(ゴブサタ)しています。狼牙さん」




凪が頭を下げたまま言った。




「おいおい、もうよせって。
3秒以内に頭下げろなんて言わねえよ」




「お久しぶりです。狼牙さん。」




続いて葵が狼牙に言った。




「あん時の小僧か?でっかくなったな。」





狼牙は懐かしむように目を細めて
二人に座るよう促した。




静かな静寂は心地よいものでは無かった。
凪と葵の二人は膝に両手をつき、
拳を握り締めた…。



「あの、狼牙さん……。
ここに戻ってくる前の美緒の事を
お聞きしていいですか…。」





恐る恐る凪は聞いた。

狼牙は一服煙草を吸い終えると
横目に二人を見て…黙って考えてた。




「先に言っておく……。
俺が美緒に会えたのは、
ここにつれてくる前のたった2週間前だ」






ハッ…









「お前らの知りたい内容は
ほとんど持ってねんだよ…。」




二人は驚いた顔を隠しもせず
狼牙を見つめた。




「どういう事ですか…。それじゃあ……
いったい、美緒は…どうやって狼牙さんの処にたどり着いたんですか…!」




焦りの含んだ葵の言葉に
狼牙は黙りこくった。




そして








「関西にある、俺の事務所の前に…
でっけえ箱が手紙と一緒に
置いてあったんだ。手紙の内容は……

『壊れかけの姫…願わくば、
あるべき場所へ還してやろう…。
ただし、心取り戻した時は…
此処へ連れて帰り…永久の愛を捧げる』

事務所に下っ端の奴等に運んでもらって
中を確認したら……
そこには傷だらけの美緒がいた。」





淡々と言葉を続けた狼牙に
二人は眼を逸らすことはできなかった。





「それからすぐに護衛をつけて
美緒を誰にも近づけさせないように
秘密にして護ってきた…そして、
美緒が望んで此処へきた……。」





3人は顔を苦渋に
歪める他無かった。









ほぼ確実に、その手紙の送り主が
誰だか予想ついてて
そいつの狙いが美緒を手に入れること…
そしてそいつは、
もうすでに“手にいれていた”




「俺は…結果的何も美緒を
守りきっていなかった……。」





狼牙は拳を強く握りしめ
それが余りにも強すぎて掌(テノヒラ)から
血が出てきてしまった。




「……その話が本当なら、
また、あの野郎は美緒を
連れ戻しに来るんですよね。」




「ああ。」




確かめてくる凪に狼牙は弱く頷いた。





「今度こそ…守りきらねえと。
美緒は永久に、闇の奥底に沈みこむな…」





狼牙は眼を瞑った。






護るも何も今回は彼奴がいねえ…




今回ばっかしは、楽には片付かねえな…





「狼牙さん。……一人、気にかけてる奴がいるんですが…。」




凪の言葉に狼牙は黙って聞いた。













夜の繁華街にある居酒屋のVIP席から
声が漏れる心配はなく
凪と葵の二人は今後の事について
話し合っていた。


その夜の暗さと、ざわめきは何かの
前兆だったのかもしれない…


いや、それとも



二人の腕にある黒と青で彫られた、
海と龍の紋章がその時を待ちわびていたのかもしれない。

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