【完】36℃の思い〜世界で1番大切なキミへ〜


「大丈夫だよ。仕方がないことだろ」



今はその優しさが苦しかった。



「須藤はとりあえず、今から病院に行ってこい」



「そ、それなら、私付き添います!」



部長の言葉に未菜は声を上げた。



副顧問の先生の車に俺達は乗り込むと病院へ向かった。

その間、未菜は俺に〝すみませんでした〟と謝った。

だけど、今の俺にはその言葉をすんなり受けいられるほどの容量がなかったから黙り込んだ。



病院に付けば診察を受け、捻挫と診断され、全治1ヵ月とされた。



「車こっちに持ってくるからここで待っていて」



副顧問は俺達を病院の入口で待たせると、駐車場に消えていく。



「「......」」



話すことなんてないし、今更話し掛けるのも違う。

だから俺達は無言で遠くに見える夕陽を眺める。



「あの...」



けれどそんな沈黙を破ったのは未菜だった。



「私、言ったこと...後悔してないです」



「...そう」



「......須藤先輩は...もっと自分を大切にしてください」



なにを言ってるんだ?って思い未菜を見れば、未菜は静かに涙を流していた。



夕陽に輝いた涙はオレンジ色で、思わず息を飲んでしまうほど綺麗。



彼女がどうして泣いているのか、どうしてそんなことを言ったのか、俺には分からない。

だけど、その言葉を...涙を簡単に流して、忘れてはいけないように感じた。



「ありがとう」



この言葉は自然と出てきた言葉だった──

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