彼は藤娘
飛べ!良妻賢母(笑)
「俺、大学は受験することにしたわ。今まで迷ってたけど、とりあえずやってみるわ。」

高校3年生の始業式の朝、いきなり彩乃くんが爆弾発言をした。
理解できずに、ぽかーんとする私。

「彩乃?何言ってるの?どこに行くって?」
セルジュがそう聞くと、義人くんも気を取り直した。
「何で?今さら?」

2人に問われて、彩乃くんは仏頂面になった。
「別にかまへんやろ。お前らを受験に巻き込もうと誘ってるわけでもないねんから。とにかくそういうことやから。遊びには誘わんといて。」

2人は明らかに、戸惑い、意気消沈した。
……この3人の友人関係は、彩乃くんの存在なしには成り立たなかっただろう。
このまま一生続くとは限らないけれど、少なくとも大学4年間は仲良く一緒にいるんだろうと思ってた。

それが、別の大学を受験?
しかも高3の1年間を、勉強に費やす?
18才の夏は1度っきりなのに!

「どこ、受けるん?」
驚いて抑揚のなくなった声で私はそう聞いた。

「え!あきちゃんも聞いてなかったん?彩乃……」
義人くんが同情してくれるのが伝わってきて、私は泣きそうになった。

でも彩乃くんはしれっと言い放った。
「関係ないやん。俺がどこに行っても、」
私は、彩乃くんの言葉の途中で立ち上がると黙って席を離れた。

「あきらけいこ?」
セルジュが声をかけてくれたけど、私は振りかえらずに隣の車両へと逃げて、次の駅で電車を降りた。

あほ!あほ!あほ!
彩乃くんのあほうっ!
何が関係ないねん!
関係、大有りやわっ!

お互い受験がない学校で、もうすぐ私の生徒会任期も終わって、やっと芳澤流に足を踏み入れる予定やのに。

これからもっとずっと一緒にいられるはずやったのに。
受験するとか、一切聞いてへんし。

しかも、どこ行く気?
もし遠くなら……
それに、近くても学部によっては忙しくて全然会えへんかも?

私は悶々としたままバスで大廻りをしたため、学校到着が遅くなってしまった。
慌てて講堂へと向かい、新二年生の始業式の後で、生徒会役員を募集を告知した。

私たちの始業式のスタートは、さらに1時間後。

高3の教室は、グランド横で通用門の近く。
一階なので登下校も楽ちんだが、風の強い日は窓を開けられないな。

最初に来たのは、遥香だった。
「おはよう。よぉ焼けてるねえ。春休みも毎日ボランティアしてたん?」

「うん!聞いて聞いてー!上垣さん、彼女と別れはってん!チャ~ンス!」
遥香は完全に浮かれていた。
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