オフィス・ラブ #∞【SS集】
どんなに冷やかされても、からかわれても。

貴志は一度も、私を避けたり変によそよそしくなったりしなかった。


もとから羞恥という感覚が鈍いのと、他人の動向によって自分の行動を変えるのを、ひどく面倒がる習性が彼にはある。

何か言われていることくらい重々承知だろうに、家と変わりなく、学校でもこうして会えば話す。


男女の双子というのは、同性の双子以上に珍しがられるもので、私たちのことは入学してすぐに学年中に広まった。

けどその噂は、残念ながら縦には広まらず。



「彼氏いるの知ってるけど、よかったら待たせてって先輩に言われた」

「俺も、同じこと1年女子に言われた」



最近になると、そんな混乱も見受けられた。

お互い彼氏も彼女もいないんだけど、貴志の部活のない日はこうして一緒に帰ったりもするため、他の学年に誤解を招くらしい。



「で、あんたはどうしたの」

「待っても無駄だって言った」



JRの駅までぶらぶらと歩きながら、何か食べて帰ろうかなんて言ってたところの話題で、え、と絶句した。



「肯定してるじゃない」

「めんどくさかったから」

「…私、正直に話して、OKしちゃったよ」

「………」



思わず、顔を見あわせる。

貴志のいいかげんな断り文句が相手の子にばれるのも、時間の問題だろう。

知ーらない。



「最低って言われるよ、たぶん」

「そのほうが、楽かも」



まったく気にしていない様子で貴志が笑う。

その背中を革鞄で殴って、確かに、妹としては仲のいいほうなのかもしれないと思った。



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