オフィス・ラブ #∞【SS集】

「じゃ、お前から別れたんだ」

「うーん…」



さすがに話しづらくて言葉を濁すと、もう終わった話なんだし、いいじゃん、と友人が言う。

貴志に申し訳ないと思いながらも、誰かに言って、少し楽になりたいという気持ちもあって。

突然貴志が帰ってきた日のことを話した。


案の定、彼の目が真ん丸になる。



「修羅場じゃん」

「向こうが冷静だったから、そんな雰囲気にはならなかったけど」

「いや、あいつ、そう見えて、それなりにショック受けてたと思うよ」



それは、そうなんだろうけれど。

そのあたりは、私はいまだに自信がない。



あの頃の私は、とにかくグラグラで。


貴志が好きで、好きで。

それだけに、すれ違いに、もう耐えられなくて。


心の隙間に、ふいに入りこんできた男と、関係を持った。

ふと魔が差して、家に呼びこんだ時に、泊まりで出張に行ったはずの貴志が、戻ってきて。


だけどきっと私は、そうなることを、心のどこかで、望んでいたんだろう。

ああこれで、貴志と別れるしかなくなったと、肩の荷が下りたような感覚が、確かにあったから。



それでも最後に、試したくなって。

あてつけもこめて、私の選んだ家具を持って出ると言った時。

彼は、どうぞ、と言っただけだった。


それを冷たいと言う権利は、私にはない。

< 67 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop