鬼課長の憂鬱
 なんでピッタリ当てるんだよ。普通は40歳“ぐらい”ですかって、多少の幅を持たせるものだろ?

 それに自分では、実年齢より多少若めに見られると思ってただけに、高宮には年相応に見られたとわかり、ちょっとショックで残念だった。


「当たりだよ。よくわかったな」


 俺は、わざと不機嫌そうな低い声で言ったのだが、


「そうだと思ってました」


 高宮は、俺の不機嫌さなど全く意に介さないかのように、例の満面の笑顔で言った。たまたま俺の歳を当てた事が、こいつはそんなに嬉しいのだろうか。

 そんな事を思う一方、俺は高宮の言い方に、少しだが違和感を覚えた。

 高宮は「思ってました」と言った。という事は、あるいは野田から俺の歳を聞いていたのかと思ったが、それはなかったわけだ。しかし“思ってました”という表現は、“前から思ってました”とか、“ずっと思ってました”というように、普通は過去からの継続の意味で使うんじゃないのか?

 俺と高宮は今日会ったばかりなんだから、少し言葉の使い方が違うんじゃないかと思った。細か過ぎかもしれないが。


 おっと、時間がもったいない。次の質問をするとしようか。


「もうひとつ質問だ。おまえの職歴を見たが、大手のソフト会社に正社員で入社したのに、1年で辞めてるよな?
 一身上の都合との事だが、いったいどんな都合だったんだ? 普通はこんな質問はしないんだが、うちの会社も1年で辞められたら困るんでね。無理にとは言わないが、出来れば教えてほしい」


 と言ったのだが、


「…………」


 高宮は無言だった。俺の言い方は思いの外きつくなり、それで高宮は困っているのだろうか。

 高宮は俺をじっと見つめ、俺もまた、無言で高宮を見た。高宮の顔に、もう笑みはない。高宮の無言は何を意味するのだろう。もしかすると……

 高宮は、俺にそれを当ててほしいのかもしれない。

 特に根拠があるわけではないが、ふと俺はそう思った。

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