鬼課長の憂鬱
 1、2、3……と数えていったら10社もあった。大学を出てからすぐに就職したものの、どの会社もちょうど1年で辞めている。


「部長はこの職歴を見たんですか?」

「見たよ、もちろん」

「これはちょっと異常でしょう」

「かもな。しかし障害者雇用で社員を採る会社は、なかなかないからね。うちみたいな優良企業は」


 出たよ。我が社自慢が。

 確かに、「契約満了」が殆どだが、中には「一身上の都合により退社」っていうのもあり、しかも……


「部長、ここを見てくださいよ。うちと同じ優良企業を、一身上の都合とかで1年で退社してますよ」

「ああ、そうだな。面接の時にその理由を問い質したんだが、あくまで一身上の都合の一点張りだ。顔に似合わず頑固って言うか、おそらく変わり者だろう」

「いいんですか、そんな人間を雇って……」

「まあ、他と比べれば一番マシだし、少なくても見た目は大人しそうだから、そう大きな問題は起こさんだろうと思ってな」

「スキルはどうなんですか? 職歴は全部ソフト会社だから、経験は豊富でしょうけどね。いや、1年しかいないんじゃ、それも怪しいですよね?」

「さあな。そう真剣になるなよ。雑用とか、当たり障りのない仕事をさせときゃいい。人員増なんだから」

「チッ」

「ん?」

「彼女の使い方については、私の自由にさせてください。いいですよね?」

「好きにしたまえ」

「入社はいつですか?」

「明日だ」

「明日? それはまた、ずいぶん急ですね?」


 確かに明日は1日だが、普通なら再来月の1日が妥当だろう。


「本人のたっての希望だそうだ。金に困ってるのかもしれんな。総務も入社処理で慌ててるよ。発令は今日出る」

「わかりました。こちらも大急ぎで準備します」

「すまんな」

「では、失礼します」

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