鬼課長の憂鬱
 高宮とイタ飯屋で軽く晩飯を済ました。軽く済ましたのは、この後酒を飲むためだ。

 店を出て、すぐに駅へ向かって歩こうとした高宮の腕を俺は掴んだ。


「高宮。俺はこれから酒を飲みに行くから……」


 “ここでさよならな?”と言うつもりだったが、言えなかった。


「あ、私も行きます。お酒飲みたいです」


 そう。俺はこれを期待していたのだ。心の奥底で。

 確か、野田は高宮と酒を飲んだと言っていたはず。従って高宮は、意外な気がするが酒は飲めるはずだと思っていた。実際は、“飲める”どころではなかったのだが。


 俺はこうなる予感がしていたので、野田を誘っていなかった。そして危険極まりないが、やはり酒を飲むならあそこが良いので、高宮を連れて行きつけのバーへ行った。


 薄暗いバーに入ると、やはりいた。奥寄りのカウンター席に一人で座り、マスターと楽しそうに会話する野田の姿があった。

 俺と高宮は、カウンター席の手前、つまり野田とは数席離れた場所へ座った。


「わあ、素敵……」


 高宮は、窓から一望出来る夜景に目を輝かせていた。


「言った通りだろ?」

「はい。いいお店ですね」


 高宮は、俺や夜景しか見ておらず、野田には気付いていなかった。このまま横に他の客が座れば、俺達は野田に見つからずに済むかもしれない。

 そんな姑息な事を考えていたら、まずマスターが俺達に気付き……


「ちょっとあんた達、何やってんのよ。こっちに来なさいよ」


 次に野田に見つかってしまった。

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