彼岸花の咲く頃に
記憶と現実

あれから2年が経ち、私も駿との記憶を封印し、やっと立ち直れた。

高校生になり、思春期真っ只中のクラスメート達は恋人を作り始めていた。
毎朝手を繋いで登校するカップルは珍しくなかった。
私にとってその光景を見るのは『苦痛』以外の何ものでもなかった。

(駿……。)
何度呼んだら答えてくれるの?
もう彼はどこにもいない。
(私、結局立ち直れてないじゃん……)

ひたすら、学校への道を急ぐ。
ふと前を歩く中学生くらいの男女に目が止まった。
「もぅー!啓太ひどーい。私のことなんだと思ってるの?」
「うるせぇ。アホ海雪」
「あっ、アホって言ったなー?!」
思わず笑ってしまう。

そんな時、視界に佇む1匹の猫を見かけた。
足はグレーの靴下を履いているみたいな猫だった。
ふと時計を見ると、始業の時間が迫っていた。
私は走り出した。その背中を猫はじっと見つめていた。

「さようなら」
1日というのは早い。
私は下駄箱に入っている手紙をカバンに入れて学校を出た。
いつもの道を歩く。
すると、今朝の猫を見かけた。
「あら?あなた。まだいたの??」
「ニャーン」
猫は喉をゴロゴロと鳴らした。
「ごめんね?すぐに帰らないといけないの。またね。」
私は足を速めた。
「ニャーン」
まだ聞こえる。
ふと後ろを見ると、猫がついてきていた。
「ついてきちゃダメじゃない!」

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