【完】『ふりさけみれば』

むろん。

愛は一慶が、本来の父親であることを知らない。

「いつも勉強を丁寧に教えてくれる、親切なお兄さん」

という程度で、愛も慣れてくると、他人に垣根をつくらない一慶になついてきた。

そうやって。

愛が私立の中学の受験に合格すると、今度はわずかだが学費も支援するようになった。

たまたま。

愛が受かったのがキリスト教系の学校で、教会の運営で学費が安かったのもあって、愛は何の不自由もなく高校まで行くことが出来たのである。

「そこまでは良かったんやけど」

一慶は言葉を濁した。

みなみは、

「…その愛ちゃんって子と何かあったの?」

核心を衝いた。

一慶はいつも以上に慎重に単語を選びながら、

「きっかけは、向こうからやったんやけどね」

と、やがて肚の据わった目でみなみを見つめた。



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