【完】『ふりさけみれば』

3 異郷の人


みなみの好奇心は、

「なんで?」

という口癖になって、会うたびにあらわれた。

通常なら。

質問ぜめにされると世の男は露骨に嫌な顔をする場合すらある。

ところが。

一慶という男はまるでそういうそぶりもなく、

「それやけどな」

と丁寧に話す。

ときには手近にあった紙を引き寄せ、常に持ち歩いていたアメリカ製の万年筆でさらさらと図を描いて指し示すこともある。

ますますみなみは不思議がって、

「なんでそんなにオープンなの?」

と訊いた。

一慶はすかさず、

「分からんで過ごすのと、分かって過ごすのとでは、まるで心構えがちゃうやろ?」

と、実に明快な回答が戻ってくる。

他は分からなかったが、みなみの前に関していえば、一慶が何か隠し事をするといったようなことは皆無で、ときには、

「今日ちょっと手持ちないから、悪いけど安いとこでえぇか?」

などといって財布を開いて見せたことがあった。

これには。

みなみもちょっとびっくりしたようであったが、

「一慶さんがよければ」

と、みなみは快く受け入れたりもした。

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