奏で桜
頷く他、選択肢がなかった。
彼が私を想う気持ちは痛いほど
わかっていたからだ。



ーそして、しばらく
私たちは沈黙した。
しかし、彼女は少し考えたような
素ぶりを見せたあと、
私に意外な提案をする。



「…それじゃ、内緒で
いっちゃおっか?」





「…え?」






「〝外の世界〟に。」







彼女は口元に指先を
もっていき、可愛らしく
ないしょのポーズをとる。





私もまた、ないしょのポーズをとった。

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