イケメン御曹司に独占されてます
一方的に責め立てられて言葉を失う私を前に、池永さんが苛立った仕草で前髪をかき上げた。

そして自分を落ち着かせるように大きなため息をひとつつくと、顔を背ける私の頬を両手で包んで、強引に自分の方へ向かせる。


「よく聞いて。加奈子との関係はちょっと複雑なんだ。でも決して男と女とか、そういった類のものじゃない。きちんと説明したいけど、少しだけ待ってくれ。明日はお前も知っているとおり、大切なプレゼンで一日詰めることになる。その準備も今からしなくちゃいけない。……時間が無いんだ」


懇願するような眼差しを向けられ、視線を逸らせない。


「明日は全力を出し切ってのプレゼンになるから、他のことは考えられない。たぶん、電話にも出られない。それくらいしなくちゃ、今度の仕事を取ることはできないと思ってる」


ひとことずつ言い聞かせるような口調で話す池永さんには、普段感じたことの無い焦りが感じられる。
池永さんにこんなに切羽詰った顔をさせる加奈子さんが、ただ羨ましく、妬ましかった。

そしてただ黙って涙を流すだけの私を、池永さんのトラウマがやっぱり抱きしめさせる。


「待ってろ。……待っててくれ」


そのまま重ねようとした唇を避けたのは、私の精一杯の抗議の証だった。




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